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メンヘラおばさんの日常

メンヘラさんは二度ベルを鳴らす(1)

一度目のベル

 最初に私がメンヘラになったのは、新卒で就職したときでした。

 世の中はいわゆる就職氷河期で、私も見よう見まねでたくさんの企業に応募を続けたのですが、採用してもらえたのは2ちゃんねるブラック企業番付で長年上位にランクインを続けていた某社のみでした。仕方ないね。

 さらにその企業の板を見ると、「勤務時間が長すぎてつらい」部署と、「つまらない仕事を定時きっちりにするだけで、キャリアも給料も上がらない」部署があるようでした。なるほど。どちらに振り分けられるかわからないけど、とりあえず覚悟だけはしておこう、と思いました。

 しかし、ふたを開けてみると、私はどちらの部署にも振り分けられませんでした。新しく立ち上がったばかりの部署に配属されたのです。同期は私を含めてたった4人。先輩たちはよその会社から引き抜かれてきた人ばかりでした。引き抜き元の会社によって、ちょっとした派閥があるような印象も受けました。いちおう、全く盛り上がらない新人歓迎会を開いていただいたのですが、先輩たちはその後会社に戻って仕事をすると話していました。とても厭な予感がしました。

 まあ結果的にいうと、「何をしているのかよくわからない仕事で勤務時間が長すぎる上に、先輩は自分を守るのに精一杯でまともに仕事を教えてもらえないのがつらい」部署でした。「何らかのITツールを売る営業」部署のはずだったんですが、「どういうシステムを売るんですか。仕様とか動作を知りたいんですけど」と聞いたら「今作ってる」という答えが返ってきました。あのさあ……。

 それでも8時半には営業会議が始まるし、昼は実際にアポ取り電話や手あたり次第会社凸に送り込まれ、実はまだ入社して数日なので新人向けの研修にも出なくてはいけないし(ほかの部署に入った新人は定時に帰っていることをここで初めて知ることになる)、就業時間が終わったら関係他社に行って商品説明会に参加したり、その後会社に戻って会議があって、自宅に帰るころには日付が変わっていました(もちろん上司はまだ会社に残っていました)。どさくさに紛れて仕事を1件とってきてすごく褒められたんですが、売り物がないのに何をどう進めていけばいいのかさっぱりわかりません。不思議の国に迷い込んでしまったような気分でした。

 そんな日々を何か月か過ごしていたら、涙が止まらなくなって気が遠くなって会社で倒れ、ものを食べることができなくなってしまいました。ここまでくるとさすがに親がキレて(電話で問い合わせたら「このままだと死ぬ可能性があります」と言われたらしい)東京まで迎えに来ました。立って歩くことも困難になっていた私は、タクシーと車椅子と新幹線を駆使して帰郷しました。

 

 しばらくの間は本当に寝たきりの状態で、このころの記憶はあまり残っていません。とにかく「普通に就職して仕事をすることができなかった」「私はだめな人間だ」「生きている価値がない」という言葉が脳内でループしていたと思います。

 

 つまり「私は仕事ができないダメ人間だから死ぬしかない」と思い込んでいたのです。これは、自分にも普通に仕事ができるのだ、と気づけば解消することができます。

 

 で、まあ無意識にそういうほうに動いたんですよね。体力が戻ってきたら、初めは短期のアルバイトから。正社員の募集は全くありませんでしたが、アルバイトと派遣の仕事は腐るほど落ちていました。徐々に長期のフルタイム派遣に移行し、派遣なのに出張までさせられるようになりました(そこまで働かせるなら正社員にしてくれよ……)。

 あれ?なんか私、すごく働いてない?

 と気づくころ、心療内科の薬を飲まなくても平気でいられるようになっていました。というか、飲んだら眠くなるのでやめてもいいですか、とお医者さんに聞いて、あっさり通院が終了しました。飲むのをやめても副作用なんかありませんでしたよ。

 

 というわけで、仕事の恨みは仕事で晴らせを実行した結果、1度目の鬱を撃退することができたのでした。数週間、数か月ではないですよ。年単位で時間がかかりました。これはブラック企業によって奪われた自己肯定感を取り戻すのにかかった時間、でもあると思います。今ブラック企業で働いているメンヘラーズ予備軍の方は、覚えておいてくださいね。入団しちゃったら数年をここで過ごすことになるんだよ。本格的に入団する前に、身の振り方を考えることをおすすめします。

 

 で、そうこうしているうちにちょっとした事件があり(私の職場とは全く関係のないところで)、巻き添えをくって私は長年勤めた派遣先を解雇されることになりました。私だけじゃなくて、派遣で来ていた人全員がクビになったんです。はっきり言って上司の気まぐれが主な原因だったので、派遣元の会社も相当怒っていましたが……。まあいいや、何とかなるさーと思っていた私は、新しい勤め先で二度目のベルの音を聞くことになるのです。この話は、また次回に。