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journal

メンヘラおばさんの日常

メンヘラさんは二度ベルを鳴らす(2)

病気のこと プロフィール

二度目のベル

 前のエントリから微妙に続きます。

 わりと長く勤めた派遣先からあっさりポイされたとき、私はすでに仕事が見つけにくい年齢になっていました。派遣社員の女って、正社員の嫁候補としての性能を求められることがあるので、25歳を過ぎると募集がガーンと減るのです。

 母の知人の会社が人手不足なので社員にならないかと声をかけてもらったのですが、車の運転ができないと務まりませんでした。そこで内勤のアルバイトに入ったのですが、事務所が埃だらけで喘息になったのでやめました。

 

 困ったなあと思っていたら、父親大阪府某市の行政嘱託職員というものの募集を見つけてきました。市役所のバイトってことですね。雇用期間が5年と限られているのがネックですが、募集条件に年齢の制限がないのがありがたいと思いました。とりあえず受けてみたら受かりました。20人程度の募集に対して、試験会場には200人ぐらいいたような気がするんですが、それでも受かりました。

 働き始める前に、採用された人への説明会みたいなものがあったので行きました。すると、ほかの人たちも全員女性で、若すぎず年寄りすぎず、という感じの年齢層で占められていました。主婦の人も多そうです。

 

 この理由は、働き始めてすぐわかりました。採用された20人はいくつかの部署に分けられたんですけれども、どこに行った人も窓口業務をさせられることになったのです。この某市では、役所の窓口に立っている人はほぼ全員アルバイトなのです。正社員、というか正職員は、奥の机で座っている人です。

 窓口は戦争で言うなら最前線です。どんな武器(クレーム、知らない部署に関する相談、迷子のおじいちゃんやおばあちゃん、見えない誰かと話している人、とにかく誰かを叱りとばしたい人)で襲われるのかわかりません。一目見て「あっヤバイなーヤバそうだなーヤバイバイバイ」と思う人が近づいてきても、ニッコリ笑顔で対応するスキルが必要です。これは若い人にはたぶんできないし(クレーム研修を実施すればできると思いますが、某市ではそうした研修は行われません。初日から窓口に立たせます)、年寄りすぎるとけんかになるでしょう。無害そうなおばちゃんであること。これが、私がこの市に採用された理由だったのです。

 

 仕事を教えてくれたのは、自分と同じバイトの立場にある先輩でした。数か月たつと、私が正職員の人に仕事を教えることも多くなりました。しかし、何か判断を迷うようなことがあった場合、バイトだけで決めてしまうと怒られました。なので、迷ったときはこまめに判断を仰ぎに行ったのですが、「どうしたらええかなあ?」と逆に聞かれたりすることもありました。

 お客さんから何かクレームがあったとき、たいていの場合は「市の決まりでやっちゃいけないこと」をやれという要求ですので、「すいませ~ん、それはできないんですよぉ~」ということを懇切丁寧に説明しなければなりません。それでも納得されない場合、正職員の人にヘルプを求めに行きます。すると、なんということでしょう。クレームの内容がいつの間にか「こいつの態度が気に入らない」に変わっているではありませんか。数時間どころか数日間、数か月間もめたこともありました。

 

 最初の半年は自分の仕事を覚えることで頭がいっぱいでしたが、1年もたたないうちに、「私たちはこんなに働いているのに、どうして正職員の人は働かなくていいんだろう?」という気持ちが頭をもたげるようになりました。

 正職員の人は家族を養えるだけのお給料をもらっていますが、私たちは最低賃金程度しかもらっていません。正職員の人は夏休みをたくさんもらえますが、私たちの夏休みは2日です。正職員の人は労働組合に入れますが、私たちは入れません。正職員の人はわりとフリーダムに有休をとりますが、私たちは有休をとりづらい雰囲気でした。正社員の人はボーナスをもらって海外旅行に行ったりしていましたが、私たちは盆も正月もゴールデンウィークも仕事に来ていました。

 

 ……わかったぞ。私たちが非正規雇用労働者だからだ。正職員の人はきっと神様か何かなのだ。彼らにとって私たちは、都合よく働く奴隷みたいなものなのだ。私は、彼らの奴隷だ。

 

ここで注意※市役所の人のほとんどはまじめに働いておられます。私も自分の住んでい る市役所を利用するたびに、丁寧に対応してもらって感謝しています。私の働いていた部署にいる人が特別中の特別、ヤバイオブヤバイであった可能性がありま す。ですので、いわゆる公務員叩きをすることがこの文章の目的ではないことを明記しておきます。

 

 この「私は奴隷だ」という気づきは、私の自己肯定感を日に日に削り取っていくようになりました。正職員の人が定時で帰り、バイトだけが残されても仕方がない。私は奴隷だから。見ず知らずの人に「税金で食ってるくせに」と罵声を浴びせられても仕方がない。私は奴隷だから。有名なクレーマーのおばさんにかれこれ1時間怒鳴られ続けているけど仕方がない。私は奴隷だから。

 

 雇用期間満了まであと半年を迎えるころ、私は盛大に手首を切り、休職しました。

 こうして私は2度目のベルの音を聞いたのです。

 

 当時の気持ちを振り返って書くだけで疲れてきました。中途半端ですが、今日はこれで終わりにします。