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メンヘラおばさんの日常

ドームコンサートへの道 完結編

 某日、ついにコンサート会場へ行くための予行演習が終了した。

 

 自宅最寄駅→JR大阪駅→地下鉄御堂筋線心斎橋駅→地下鉄なんちゃら線(忘れた)ドーム前千代崎駅、というルートを使った。

 しかし、心斎橋でなんちゃら線に乗り換える際、「←なんちゃら線」「←なんちゃら線」「←なんちゃら線」の案内にしたがってずんずんと地下へ誘導されるのに若干不安を感じた。ディズニーランドへ行くときの京葉線じゃないんだからさ。

 

 ドーム前にあるイオンモールの、ガラーンとしたフードコートで休憩してから帰ることにした。帰りは阪神なんば線とJR環状線を使って大阪まで行ってみた。阪神線が途中から地上に出て、川を渡るのが面白かった。本番は阪神線を利用することに決めた。

 しかし、最後のJR大阪駅→自宅最寄駅の段で帰宅ラッシュと重なってしまい、右手が震える症状が小一時間続いて困った。そんなに疲れていないつもりでも、身体が「無理ッス」と訴えている。本番はこれに「コンサートを約2時間楽しんで、その後たぶん連れと夕飯を食べる」というミッションが加わるのだ。無理にもほどがある。

 結局、コンサートの日はドームからできるだけ近いホテルに宿泊することにした(普通の人はこの距離で宿泊しない)。疲れすぎて翌日起きられないかもしれないな……と思っていたら、14時チェックアウトという宿泊プランがあった。ちょっとお高いけどそこに決めた。結局予行演習したルートとは微妙に違う路線を使うことになったが、だいたいの位置関係は把握したのでよしとする。

 

 いよいよコンサート当日。

  ……の3日ほど前から、緊張して喉がつまるような状態がずっと続いていた。ピアノの発表会で、自分の出番の直前に舞台袖で待機しているときのような感じ。いや、ピアノ習ったことないけど。

 いつもと同じ睡眠薬を飲んで寝たのに、当日はやたら早く起きた。ぎりぎりまで寝て体力を温存しておきたいのに、なぜ思いどおりにならないのか。

 当日、もはや4回目となる大阪入り(吐き気を伴って)。ホテルにチェックインし、開演30分ほど前にドームに到着した。だが。

 

 目の前の風景は、ほんの数日前に予行演習で訪れたときの風景とは全く異なっていた。駅からドームへの道を埋め尽くす、人、人、人、人。民族大移動でも起こったのかというぐらいの人の群れである。入場して自分の席についたときには、もう開演が目の前に迫っていた。連れはすでにツアーグッズを購入して座席で待っていた。

「すごい人だね……」

「ドームだからね」

「なんでこんなに人がいるの……」

「コンサートだからね」

「何だこれ……」

「大丈夫?」

 大丈夫なのか大丈夫でないのかよくわからないがコンサートは始まるのである。ショウマストゴーオン。

 

 結論からいうと、コンサートはあまり楽しめなかった。

 あんなに見たかったアイドルは、米粒大とは言わないまでも、タイ米を縦に3粒並べたくらいの大きさにしか見えなかった。アイドルが手を振ってくれるアリーナ席には、ファンクラブに入るなどして日々功徳を積んだ者だけが座れるのだそうだ。

 大音量とピカチュウショックを起こしそうなレーザー光線の演出に頭がぼんやりしてきて、途中で一度席を抜けた。戻ってきてからは席に座って目をつぶっていたが、それではコンサートに来た意味がないと気づいて目を開けて、また耐えられなくなって目をつぶったりしていた。

 コンサートが終わって、イオンモールで休もうかと思ったのだけれど、黒い人の波がじゅるじゅるとイオンモールの入り口に吸いこまれていくのを見て血の気が引いた。頼むからなんばまで連れていってくれと連れにせがんだ。連れの腕にしがみついて電車に乗り、電車の中では連れがすばやく確保してくれた席に座ってひたすら下を向いていた。

 ようやくなんばの地下街に着いたが、連れは土地勘がない。私には意識がない。

「……連れさん、おなかすいてる?」

「すいてるけど……メンヘラちゃんは?なんかナナメに立ってるけど平気?」

「でんでん食欲ない……座ってたばこ吸えるところに行きたい……」

「わかった」

 軽く地下街をさまよったが、ご飯メニューもあるカフェに入ることができた。メニューを見て私の第六感的な何かがピキーンと鳴った。鳴ったような気がした。

「糖分が!!!ほしい!!!」

 普段だったら絶対食べない極甘系のパンケーキを頼んだ。店員さんが「ソースはこちらの3種類からお選びいただけますがいかがなさいますかー?」と聞いてくるのだが、こちとらすでに「選ぶ」能力も失われているので、必殺技「おねえさんのおすすめのやつにしてください」で押し通す。

 パンケーキが来た。添えてあるアイスクリームを一口。

「糖分~~~~~~~!!!しみる~~~~!甘い~~~~!!」

 誰だよ10分前に食欲ないって言ったの。しかし本当に脳にしみたのだ、甘味が。ギュルンギュルン音を立てて脳が動き出したような気がした。連れには本当に本当に本当に申し訳ないが、コンサートで一番の思い出はこのパンケーキだと思う。

 

メンヘラちゃん、ホテルとっててよかったねえ」

「本当だね……連れさん、今日はありがとう」

「いや、ストレスを与えてしまったようで申し訳ないんだけど」

「いいストレスでも悪いストレスでもこうなるからいいストレスを与えたほうがいいんだよ」

「それならよかった」

「ところでさ」

「何?」

「私どんな仕事ならできると思う?」

 

 この流れでなぜ仕事の話をし始めたのか、自分でもよくわからない。どんな仕事ができると思ってるんだ……。っていうか、その話、今、必要……?

 それでもゆら~りゆら~りした感じで受け答えしてくれた連れさん、ありがとう。あんた神だよ、菩薩だよ。来世できっとアリーナ席とれるよ。

 

 別のホテルを予約していた連れと別れて、無事自分の宿に着いた。翌朝はまたしてもめちゃ早起きしたが、動けない感じがしたのでもう1度昼まで寝た。チェックアウトして寄り道もせずまっすぐ家に帰って夜まで寝て、ご飯を食べてまた昼まで寝た。

 長い長い2日間だった。得た教訓は2つ。

  • 大きな会場でのコンサートはしばらく避けよう
  • 脳には甘味

 そして今、ようやくブログを書けるまで脳が戻ってきたが、不正出血が止まらなくて泣いてる。おばさんは回復が遅い。