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メンヘラおばさんの日常

相模原市の事件で思い出したこと

 相模原市の事件を受けて思い出したことが3つあります。

 

nikon-deux.hatenablog.jp

  • 中学校の行事の思い出

 中学生のとき、養護学校の生徒と交流するという学校行事がありました(今も養護学校という言い方でいいのかな。詳しく知りません)。1学年が学校に招かれて、一緒にお遊戯をしたり何やかやした記憶があります。

 行事が終わって最後にお別れの挨拶みたいなものがあって、その直前、先生たちが舞台の準備をしていてぽかっと空いた時間がありました。私は友達がいなかったので、1人でぼけーっと立って待っていました。

 すると何かがぎゅっと私の片手をつかみました。ぎょっとしてそちらを見ると、養護学校の生徒さんの1人が私の手を握ってにこにこしていました。

 養護学校の先生が「○○ちゃん、だめよー。お姉さんがびっくりしてるじゃない」とその手を引き離し、周りにいたクラスの子たちは「メンヘラさん(便宜上この名前にしておきます)は優しいからなー。優しい人がわかるんやな」などと笑っていました。

 違う違う、そうじゃ、そうじゃなーい。

 ○○ちゃんは私が1人ぼっちなのに気づいて、かわいそうだと思って来てくれたのです。うわー見抜かれた、と、何とも言えない気持ちになりましたが、優しいのは私じゃなくて○○ちゃんのほうです。「お姉さん1人なの?私が友達になってあげるよ」と、明確な言葉で言わなかっただけです。

 

 浪人中、予備校にも行かずに近所のマクドナルドでバイトしていた時期があります。

 ある日、ザーッと自動ドアが開いて「いらっしゃいまs」まで言いかけた瞬間、来店した女の人は一言こう叫びました。

「うんこー」

 店内がええええええ……という空気に包まれましたが、私は駆け寄って店のトイレまで女性を案内しました。女性は静かにトイレに入り、しばらくして黙って出てきて、またザーッと自動ドアの向こうに去っていきました。

「近くに作業所があるからな。ああいうやつたまに来るねん。メンヘラさん、トイレの中、一応見てきて。めっちゃ汚くしてるかもしれんし。ホンマ厭やなー」とマネージャが言うので、私はトイレを確認しにいきました。別に異常はありませんでした。

 

 これってつまり、あれですよ。作業所に着くまでに「おなか痛い!間に合わない!」って思ったんでしょうね。で、周囲を見渡すと、お店はいろいろあるのですが、トイレを借りられそうなところってあまりないのです。このマクドナルドでトイレを借りるのが最適解なのです。で、「すいません、トイレ貸してください」という言葉が出てこなくて「うんこー」という発言になったと。

 このままいくと作業所に着くまでにもらしてしまう、という予測ができて、いちばんトイレ借りやすそうな店がどこか判断できて、店員に一声かけてトイレを借りる。という一連の動作ができたのだから、じゅうぶん偉いじゃないか、と思いました。無言で出ていったのはちょっと恥ずかしかったのかもしれません。

 

  • レンタルビデオ店に来た親子

 メンヘラ第一期が空けて、私は体慣らしにレンタルビデオ店でバイトをしていました。あ、あの人借りにくるかな、というお客さんがいたので、レジに立って待っていると、そのお客さんを押しのけるようにして、ビデオを手にした男の子が突進してきました。押しのけられたお客さんは「何なの?」みたいな表情をしていましたが、すぐ隣のレジが空いていたのでトラブルにはなりませんでした。

 男の子はお母さんと手をつないでいたのですが、お母さんを半ば引きずるようにして突き進み、カウンターにビデオを突き出しました。たぶん彼の中で「右から何番目のレジで借りる」みたいな決まりがあるんだと感じました。なので、できるだけ手早く、マニュアルどおりの言葉しか口にしないようにしました。

「ご利用は1週間でよろしいでしょうか。○○円になります。返却日は○月×日です。ありがとうございました」

 たぶんこの言葉は彼の耳には届いていません。お母さんがお釣りを財布にしまおうとしているのにも構わず、彼はレンタルビデオの袋を受け取ると、またお母さんを引きずるようにして店の外へと突進していきました。店の中は必要以上に明るいし、いつもラジオ風のBGMが流れていてうるさいし、用が済んだら一刻も早く出たかったのでしょう。これだけうるさくてごちゃごちゃした店内で、パニックにもならず、ちゃんとお目当てのビデオを借りられたのだからすごいと思います。あの子、中学生ぐらいかな。背も高いし、お母さんの体力をとっくに追い越しているでしょう。お母さんも大変だな。

 

 思い出したのはこんなことです。

 

 相模原市の事件では、犯人は被害者に名前を問いかけ、答えられない人を殺したと報道されています。「話が通じない人を殺した」と言って。

 たしかに、施設にいたのは重複障害者など、意思疎通の難しい人が多かったのでしょう。でも、本当にそうなのだろうか。

 私が出会った知的障害のある人たちは、みんな軽度だったからかもしれませんが、彼らが何を言いたいのか、何をしたいのか、初対面の私でも理解できました。長らく施設で働いてきた犯人は、本当に被害者と話が通じなかったのでしょうか。

 わかった、という瞬間があったかもしれない。でも次の瞬間にはわからなくなって、「裏切られた」という気持ちになるのかもしれない。ハードな勤務も重なって、「なんで俺がこいつらのために尽くさなきゃいけないの」という気持ちになってしまったのかもしれない。

 ……全部想像です。私の妄想です。

 でも、事件のニュースを目にするたびに、私はほんの一瞬すれ違っただけの彼、彼女らのことを思いだすのです。

 言いたいこと、伝わったよ。伝えようと頑張ってくれてありがとう。